前回は「算数・理科の記述問題の採点者の姿勢2〜武蔵中学の記述問題やレポートへの教員の姿勢・武蔵カラーと採点基準・答えが違う記述問題の採点結果・「計算ミスで全滅」のゆくえ・中学入試の記述問題の採点基準・教員たちの日常と受験生たちの非日常〜」の話でした。
記述式試験の具体的な採点方法と攻略法:武蔵中学定期試験の記述採点の現実
今回は、上の武蔵中学三年の社会・歴史の定期試験の採点から「記述採点の現実と攻略法」を話です。
このテストは、僕が中学三年生の時の現実の答案です。
このように、在籍時の試験を公にするのは少し抵抗があります。
すでに30年以上経過しており、担当のO先生はすでに武蔵中高からW大学へ移籍したので、OKと判断しました。
このテストは、実家の屋根裏部屋を整理していたら出てきた資料です。
他にも様々な資料が出てきて、
あ、これは
高校一年の時の数学だ・・・
など、とても懐かしく感じたものです。
かなり廃棄しましたが、自分が作成したレポートなどは思い入れがあるので、保管してあります。
このテストは記述式ですが、100点満点です。
記述式試験では「100点満点」は「ほぼあり得ない事態」で、「最高で98点程度」というのが一般です。
この試験を見つけたときは、
100点取ったことも
あったんだ・・・
全く記憶になく、自分でも驚きました。
他には80点などの試験が見つかり、難易度によって大きく変わるのが試験結果です。
この試験は答案のみで試験用紙を紛失していますが、おそらく試験が比較的易しかったのでしょう。
この歴史の授業をしたO先生の授業はとても特殊でした。
「普通の・一般的な歴史」は、「統治者側から見た視点」です。
戦国期なら織田信長や豊臣秀吉、幕末維新なら西郷隆盛や勝海舟と「概ね体制側」のストーリーです。
O先生の授業の視点は全然違って、「民衆から見た視点」だったのです。
この時は、〜の民衆たちが
集まって、一揆が起きて・・・
とにかく民衆、民衆だったO先生の歴史の授業。
小学生の頃から「歴史大好き」で、中高では司馬遼太郎・池波正太郎・海音寺潮五郎・吉川英治などばかり読んだ僕。
ああ、O先生の話って、
とっても面白い!
この頃は、数学や物理大好き少年になっていましたが、歴史はとても好きで積極的に学びました。
その異常なまでの積極性が、テストの成績の良さにも反映されているのでしょう。
中学入試の中でも、異様な異彩を放ち続けている武蔵中学の入学試験。
最も大きな特徴は、「解答用紙が異常に広い」ことです。
たいていの入試問題の解答用紙は、小さなブロックに分かれていて「答えのみ」記載します。
「過程も書きなさい」という試験でも「過程を書く欄」は、それほど広くないのが一般的です。
対して、武蔵中の「なんでも書いて下さい」という感じの広い解答用紙。
独特な記述問題を出題する麻布中の解答用紙は知りませんが、似た傾向があるかも知れません。
学内でも記述メインの武蔵中高では、上のように「全てほぼ記述」が多いです。
今は少し変わったかも知れませんが、レポートなどをひたすら書いていると、
書くのは
慣れたし、好きだ!
という感じになってきます。
大学入試では、東大はじめ「ほとんど記述」というタイプの試験があります。
それでも、武蔵の「考えを全て書きなさい」という傾向の問題は、ほぼありません。
さらに、「共通テスト」(センター試験)のように「答えだけ」を超えて「マークだけ」の試験もあります。
試験で、自分の文章を
表現するのは、楽しい!
と「文章を書く」ことが得意になると、「マークだけ」の共通テストに対しては、
なんで答えだけ選ぶんだ・・・
僕の答えを評価して欲しい・・・
と「自分の思考が妨げれられる」ような気がしてしまうことがあります。
実際、僕も得意な数学や物理でも、
なぜか、マーク式だと
成績が悪い・・・
ということが多くあり、ガッカリすることも多かったです。
この日本の受験界から「大幅にズレた教育」をしていたのが、30年前の武蔵中高でした。
そして、それは今は変わったと思いますが、「基本的軸」は同一でしょう。
記述試験の採点方法と基準:ポイントとなる部分に加点
もう一度、試験の採点結果を見てみましょう。
レポートや音楽などの記述試験では、「全体的な感覚でA,B」など付けられていることが多かったです。
このO先生の採点は、「しっかりと採点の根拠」が示されています。
O先生が、
ここを答えているのは
良い!
と考えた部分には「アンダーラインが引かれて、左下に小さく5点」と記載されています。
それら「5点x5=25点」が一問当たり最大点で、「5点が幾つ加算されたか」でそれぞれ点が決まります。
上の試験答案の字は綺麗ではありませんが、試験の答案はこの程度でも十分でしょう。
決められた時間内に「答案を書き上げなければならない」受験生や中高生。
とにかく「書かなければ、評価されない」のが現実です。
よしっ!
この問題では、ここがポイントで・・・
と頭の中で、答えとなるポイントを整理して、時間内で文章にするのは大変です。
記述には「意見を含む」タイプもありますが小数であり、大抵は「何かを具体的に答える」問題です。
この試験では「意見や感想」は別に記載する欄があり、答えるべきことは「教わったことを文章に」です。
中学受験〜大学受験の記述試験でも、同様な感じで採点が行われているのでしょう。
定期試験と受験は全然異なりますが、教員にとっては「日常の採点の延長」でしょう。
この視点で考えるとき、教員・先生方の「記述試験の採点方法」は定期試験と受験で同一と考えます。
この試験の採点から、「記述ではポイントとなることを明確に書く」ことが大事です。
これは当然のことですが、「ポイントとなることが複数ある」ときは、それを書くと加算されるでしょう。
逆に「ポイント周辺ばかり書いて、他が抜けていると点が上がらない」ことになります。
・問題のポイントとなる点を考えて、それが何か、複数あるのかを思考
・ポイントを頭の中で整理して、文字数(解答欄)におさまるように簡潔に書く
加点のポイント:「1つのキーワードを固める」姿勢
一部の答案を拡大して、具体的に見てみましょう。
問題文は紛失しましたが、どうやら寺子屋や出版文化、そして民衆の政治意識に関する問題です。
19世紀初期の民衆の世界はどんどん広がっていった。それは農間余業(副業)としての商品生産の展開がその背景だった。そして、民衆教育の隆盛となり寺子屋が増加し、そして計算能力、識字率も増加していった。そして、出版文化の発展、在村文化の発展もそれに伴い、民衆は権利を主張し始めた。村役人入札制(本百姓による村役人の選挙制度)の隆盛や訴訟が増加(村間出入、村方運動の頻発)した。
そして、商品生産の成果を小農の手へ獲得する運動が活発化し、その例として畿内綿生者の国訴があげられる。そして、諸藩が小農の商品成果を国益として搾取するように企図すると、国益仕法反対一揆がおこった。こうして、民衆の政治意識は成長し、権力からの一定の「自立」を獲得したのだった。
上の僕の答案に対して、O先生が点数を与えた箇所に黄色の下線を引きました。
ここで5点、
そしてここで5点・・・
とO先生は採点してゆき、最後に合算して合計点を出しています。
実際にはプロなので、パパッと読んでササっと素早く採点しているのでしょう。
中学三年生であることを考えると、時間内によく文章をまとめたと思います。
それだけ、武蔵中学で学んでいると「書くことに慣れる」のでしょう。
具体的に「加点のポイント」を考えてみましょう。
順に見てみると、「加点のポイント」のキーワードは下記です
・農間余業、商品生産
・民衆教育、寺子屋、識字率
・運動、綿生者の国訴
・商品成果、搾取、一揆
・民衆、政治意識、「自立」
それぞれ、2〜3のキーワードがあります。
記述問題では、キーワードは非常に大事です。
他の文章は書いていても「加点されなかった」部分です。
個人的には、他の部分も大事な点がありそうですが、O先生の視点では違ったのでしょう。
ここの部分は、
別に答えなくても良いが・・・
この試験では「上のようなキーワードが盛り込まれた文章が基準を満たしている」ので満点となりました。
今回の答案の例は、中学三年生向けなので、高校受験・大学受験でも参考になる面があるでしょう。
記述では「多少意見を盛り込む」こともありますが、キーワード周辺をまとめるようにしましょう。
中学受験では、上のような長い記述が想定されることはなく、上の例の「1つか2つ程度を答える」でしょう。
模範解答例では、解答のキーワードが複数網羅されているケースが多いです。
中学受験生は記述では、まず「1つのキーワードを固める」姿勢が良いでしょう。
・1つのキーワードを固めて、具体的に説明
・もう1つ(2つ)キーワードがあるかどうか考えてみて、それに応じて文の構成をつくる
「模範解答は何か」にこだわりすぎず、ポイントやキーワードに注目して、文を構成して書いてみましょう。
文の流れ等の違いもまた個性の一つなので、こだわりすぎずに「書いてみる」のが一番の対策になるでしょう。
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