前回は「海兵の若者たちが毎日音読した「五省」〜人間として最も大事なこと・海軍兵学校と現代の大学の目的と存在意義・日本の大学進学率の推移〜」の話でした。
「帝大よりも先」だった陸士と海兵設立:欧米列強から国家守る軍指揮官
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今回は、上の海軍兵学校の若者たちが毎日音読した「五省」を具体的に考えてみます。
難しい漢字もあり、高校生や大人でも「読めない字」があると思われます。
当時「16歳〜19歳」が海軍兵学校への入学時期で、現代の高校〜大学相当になります。

憧れの
海軍兵学校に入学だ!
戦前に存在した「海軍士官を育てる超エリート校」だった海軍兵学校。


当初は、明治政府によって築地につくられた海軍操練所・海軍兵学寮が前身です。



我が国の国力を
増強しなければ!!
徳川幕府を討幕して、新たな明治時代を築いた明治維新の元勲たち。





我が国の産業も軍事力も
増強する必要がある!
当時は、欧米列強がアジアを侵略し続けていた時代で、アジアは「ほとんど欧米の植民地」でした。
現代では、米国などでは「宇宙軍」なども存在しますが、大きく陸海空軍に分かれます。
明治時代は、諸外国含めて、まだ空軍はありませんでした。
つまり「陸海軍」が国家を守る時代でしたが、



我が国の海軍の
力が貧弱すぎる・・・
江戸時代末期に、佐賀鍋島藩、薩摩島津藩などで造船が可能でしたが、欧米より遥かに貧弱でした。



まあ、陸軍の方は、
我が薩摩藩士が強いごわす・・・
おそらく「強力だった武士・藩士の存在」によって、陸軍は「欧米とも戦える」状況でした。
実際、銃などの武器は劣るものの、白兵戦であれば当時の薩摩藩士は世界最強だったでしょう。



我が国の
海軍の指揮官を育成しなければ!
設置年 | 大学名 |
1868年 | 陸軍士官学校(前身の兵学校) |
1869年 | 海軍兵学校(前身の海軍操練所・海軍兵学寮) |
1877年 | 帝国大学(東京帝国大学) |
そして、海軍の指揮官を育成する海軍操練所(海軍兵学校)が創設されました。
欧米と違い、「正式な教育機関の確立」がやや遅れていた大日本帝国。
帝大などは「後回し」で、まずは陸軍士官学校と海軍兵学校の設立が急務でした。



至誠に悖る(もとる)
なかりしか!



言行に恥ずる
なかりしか!



気力に欠くる
なかりしか!



努力に憾み(うらみ)
なかりしか!



不精に亘る(わたる)
なかりしか!
そして、「エリート海軍士官」の根幹が、この「五省」です。
人格の骨格となる海兵の「五省」:誠実さと真心大事に


後に、東京・築地から、はるか遠くの広島・江田島に移動した海軍兵学校(海兵)。
海兵では、現代の感覚で考えると「スパルタ」を超えた「超スパルタ」教育が行われていました。





海兵の教育は
楽しかったが、キツかったな・・・



あの教育は、いわば
「弾圧注入教育」だからな・・・
時期によりますが、海兵での「学習期間」というより「修行期間」は3年か4年でした。
3年か4年の間、学生たちは、教員及び上級生から、文字通り「学びを叩き込まれた」のでした。
「超スパルタ」で「超詰め込み」だった海兵の教育からは、多数の海軍将官たちが巣立ってゆきました。



ちょっと、海兵の教育は
「詰め込み式」過ぎる・・・



これでは、画一的な人物ばかり
育ってしまい、独自性が失われてしまう・・・



自学自習のダルトン(ドルトン)式で
海兵の教育を変える!
永野のようなリベラルな発想もありましたが、概ね「詰め込み教育一辺倒」だった海兵の教育。
海兵の教育の是非はありますが、この「五省」はとても良いと考えます。
毎日猛勉強と猛特訓を終えた学生たちは、最後に自習の後、5分ほどの間で毎日「五省」を読みました。
おそらく、海兵の3号生(または4号生、海兵最低学年)は、



毎日読まされるから、
もう暗記してしまった・・・
入学して一月で「丸暗記してしまった」でしょう。
現代では、低学年から「一年生、二年生・・・」ですが、海兵では逆でした。
海兵では、「最上級生=一号生」で、以下、二号生、三号生となりました。



僕は入学してばかりの
三号生だ!
海兵の修行期間によって、最低学年は三号生か四号生になります。
この「五省」は、海兵の試験で出されたかは不明ですが、「暗記すべきこと」だったでしょう。
本来、暗記は「ひたすら暗記する」よりも「何度もやって覚えてしまった」のが望ましいです。
「ひたすら暗記」は、試験が終わった後などに「すぐに忘れてしまう」傾向があり、あまり意味がないからです。
暗記ではなく「習得」と考える話を、上記リンクでご紹介しています。



確かに毎日読んだら、
覚えそうだね・・・
この「何かを毎日読む」だけでも、現代の感覚では「スパルタ」です。
一方で、「五省」は「人生の根幹をなす言葉」であり、この言葉を現代の方が知ることは意義深いです。
海兵と同等の学年である、高校生・大学生はもちろん、小学生・中学生にとっても大事でしょう。
一度、声に出してみましょう。



至誠に悖る(もとる)
なかりしか・・・



言行に恥ずる
なかりしか・・・



気力に欠くる
なかりしか・・・



努力に憾み(うらみ)
なかりしか・・・



不精に亘る(わたる)
なかりしか・・・
「五省」は「海兵=海軍軍人志願者」向けなので、内容な完全に「男子向け」です。
一方で、内容は男女関係なく「普遍なこと」であり、女子にとっても味わい深いでしょう。



難しい言葉だけど、
内容は深そう・・・
「五省」は、原語は少し難しいので、現代語訳で考えてみましょう。
一、誠実さや真心、人の道に背くところはなかったか
一、発言や行動に、過ちや反省するところはなかったか
一、物事を成し遂げようとする精神力は、十分であったか
一、目的を達成するために、惜しみなく努力したか
一、怠けたり、面倒くさがったりしたことはなかったか
まずは、トップに上がるのが、



誠実さや真心、
人の道に背くところはなかったか!
「人の道」は高尚な感じがしますが、「誠実さや真心に背かなかったか」です。
これは「人生の根本的なこと」とも言えます。
中学生や高校生は、



とにかく勉強して
偏差値上げるぞ!
偏差値アップを目指すのも良いですが、時には、



僕は、誠実に、真摯に
学んでいるかな?



私は、誠実に、真摯に
学んでいるかな?
「誠実に真摯に、将来のために学んでいるか」を考えてみるのも良いでしょう。
そういう姿勢が、長期的視点では「学力アップにつながる」と考えます。
次回も「五省」の内容を具体的に考えます。