前回は「「『やる』の意味の核心は何か」を読み解く〜場面の一人になる姿勢・「書いていないこと」を読み解く力・色々使用可能な日本語「やる」〜」の話でした。
「『裏をかく』の意味」を読み解く:言葉の意味を正確に表現する力

今回は、前回に引き続き、「読み解く力」を養成する学びに関する話です。
「読解力」という言葉は、小学校、中学校、高校の学びにおいて、国語の学習の範囲の扱いです。
確かに、国語、特に中学以降は「現代国語」と呼ばれ、古文、漢文とは分けられて呼称されることが多い国語は、「読解力を養う」ことが学びの根幹です。
その一方、筆者は「読解力」は国語の範囲であっても、「読み解く力」は全ての科目に関わる力と考えます。
・「読解」力=文章に「書いてあること」を的確に把握して処理する力
・「読み解く」力=文章に「書いてないこと」を深読みして理解して表現する力
「読み解く力」とは、「読解力」のように「書いてあること」を的確に把握することを超えた力、と考えます。
今回は、誰でも知っている「裏をかく」をという言葉を題材にします。
「裏をかく」を的確に読む解いて、意味を説明することを考えます。
ポツダム宣言受諾に関する「歴史の真相」を、発見紀行でご紹介しています。
まずは、下記の3つのリンクを順にご覧ください。
この3つの物語の流れの概要を下記にまとめます。
迫水久常なんとか、なんとか
早く終戦へ・・・
当時、内閣書記官長(内閣官房長官)だった迫水久常は、複雑極まりない大日本帝国の統治機構の中、「確実に終戦へ進める手続き」を模索していました。
「海外放送(同盟通信社)を利用」など、「あの手この手を尽くして」いた迫水久常。



なんで、あのような
海外放送をやらせたのか!



いったい、誰が
許可したのか!



いったい、お前は
我が皇軍をなんだと思っているのだ!!
ところが、陸軍を中心とする軍部は、徹底抗戦を叫び続けて「いきり立っていた」のであり、「暴発寸前」というよりも「暴発しかけていた」状況でした。



四日前の八月九日、皇居の防空壕の中で
開かれた最高戦争指導会議には、



正式に陛下のご臨席を賜ったが、
この時は、ご臨席奏請の書類に必要な



梅津参謀総長、豊田軍令部総長の
花押は事前に頂いていたものを使った。



あの時は、無断で花押を使ったから、
今回「下さい」と言っても、



あの二人(梅津と豊田)は
断ってくるだろう・・・



極めて異例のこととは
存じますが、今度の御前会議は、



陛下の方からお召しを頂くように
されたらいかがでしょう。
「終戦の手続き」には、「御前会議における昭和天皇の裁可」が必要だった当時。
迫水書記官長は、本来ならば「帝国政府・大本営が昭和天皇に御前会議を申し出る」手続きを、「昭和天皇が自ら招集する」手続きに変えようと「画策」しました。



それが
一番良いようだね。





本日十時に
参内せよ。
それを受けて、昭和天皇は「自ら御前会議招集」に踏み切ったのでした。
この「自ら御前会議招集」は、「単に御前会議を招集した」に留まらない話であり、昭和天皇の視点から考えると「天皇の慣例を自ら破る」極めて重大な決断でした。



陸軍省の
者だが・・・



迫水書記官長だね。
君はまた我々の裏をかいたな。



これから、我々がどうするか、
覚えていろ!
そして、陸軍省は「裏をかいた」ことに激怒して、迫水書記官長にわざわざ「電話で警告」したのでした。
あらすじは上記の通りですが、以下の問題を考えるにあたり、ぜひ、上記リンクを一度ご覧ください。
上の三つのリンクの話の流れをもとに、陸軍省の人物が言った「裏をかく」という意味を、簡潔に、分かりやすく説明してください。
「流れをもとに」して「裏をかく」という説明をすることが求められています。
そのため、「ストーリーの流れを読み解いて表現する」ことが大事です。
この問題の意図は、ある程度幅のある「裏をかく」という言葉の意味を、話の流れに応じて的確に説明することです。
「軍部が〜」あるいは「迫水書記官長は〜」と、具体的な話を説明するのではなく、「裏をかく」の意味を簡潔に表現することが求められています。
「裏をかく」という、比較的一般的な言葉をきちんと理解して言葉で表現してみましょう。
「具体的にどういうことか」を考えてみる姿勢:登場人物たちの思い


「裏をかく」という言葉は、それほど日常会話では使用しませんが、小学校高学年以上の日本人ならば大抵知っている言葉です。
相手が予想していることと反対の行動をして、相手を出し抜くこと
AIに尋ねると上のような回答になり、当然ながら「ほぼ正しい」です。
ここで、まず一点気になることは「相手を出し抜く」という言葉が「分かりやすい」かどうか、です。
「出し抜く」という言葉は、それほど難しい言葉ではありませんが、「分かりやすい」とは言えないと考えます。
相手の隙をついたり、だましたりして、自分だけが先に利益を得たり物事を進めたりすること
「出し抜く」のAI解答例は上のとおりであり、結構広く、深い意味があります。
仮に、中学受験や高校受験の国語の問題で、



分かりやすく
説明してください。
又は、



平易(簡単)な言葉で
説明してください。
このような問の場合、「出し抜く」をそのまま使用することが適切かどうか、は様々な声がありそうです。
問題文や問題の流れにもよりますが、「出し抜く」という言葉自体を説明したいところです。
上の「AI解答例」を「合体させる」解答は、下記になります。
相手が予想していることと反対の行動をして、相手の隙をついたり、だましたりして、自分だけが先に利益を得たり物事を進めたりすること
「出し抜く」という表記を変更すると、上記のようになります。
この回答で、大体「裏をかく」は表現されていますが、「反対の行動」という表現が気になります。
「反対」とは、「どこまでを反対と呼ぶか」にもよりますが、必ずしも「反対でなくても良い」場合もあります。
ここで、「裏をかく」という言葉には、「裏」があるので、「表」の反対の「裏」を実行したことになります。



陛下からの
お召し、だとっ!



一体、なぜ
そんな事になるのだっ!



誰だっ!こんなこと
思いつきやがったのは!



迫水だなっ!
あの野郎っ!



いちいち俺たちの裏を
かきやがって!
上の「陸軍省の人物たちの考え」に、重要なヒントがあります。



一体、なぜ
そんな事になるのだっ!
ここで重要なことは「なぜ、そんな事になるのか」と、軍部(陸軍省)が怒り狂っている点です。
確かに、「陸軍省が考えた」のは、「御前会議引き伸ばし」であり、それに対して、迫水は「御前会議即時開催」という「反対」の行動に出たのでした。
そして、「昭和天皇が奏上を受ける」のではなく、反対の「昭和天皇が自ら招集命令」という「反対」の行為に出たのでした。
この点で、「反対」の事実が多いが現実ですが、注意点があります。



極めて異例のこととは
存じますが、今度の御前会議は、



陛下の方からお召しを頂くように
されたらいかがでしょう。
それは、迫水書記官長が「極めて異例のこととは存じますが」と言っている点です。
日本語は曖昧な点が多く、「極めて異例のこと」とは文字通り「極めて+異例のこと」ではなく、「本来(元々は)存在しないこと」を指します。
つまり、「昭和天皇が御前会議召集」は「極めて異例=存在しないこと」であり、本来「選択肢にはなかったこと」だったのでした。
この点で、「裏=昭和天皇が御前会議召集」ですが、そもそも「裏は存在しなかった」ことになります。
この流れを読み解くと、単に「反対のことを行なった」は、本ストーリーをもとにすると「不適切」となります。
根幹となるのは、「思いもしなかったこと」又は「思いがけないこと」を思い切って実行した事です。
1.相手を出し抜くこと。(1点)
2.相手が想定する反対の行為に出て、意表をつくこと。(1点)
3.相手の隙をついた行動を起こし、自分だけが先に利益を得ること。(2点)
4.相手が思いもしなかった手段に出て、相手の隙をつき、相手に損をさせて自分たちが利益を得ること。(3点、模範解答例)
1は、概ね基本的には正しいですが「出し抜く」の説明が欲しく、説明が不足しているので、1点です。
2は、他のストーリーの流れならば「ほぼ正しい」ですが、上記の通り、そもそも「裏=昭和天皇が御前会議召集」は「あり得ない選択肢」であったため、「反対の行為」が良くないです。
ただし、「他のストーリーならば正答」の可能性が高いです。
3は、ほぼ正しいですが、「自分だけ」というのが制約を強め過ぎていると考えます。
上の流れの文脈では、利益を得るのは、鈴木首相や迫水書記官長、あるいは米内海軍大臣などの「終戦派」であり、必ずしも「迫水書記官長だけ」ではありません。
この点では「終戦派だけ」という意味で、「自分が所属するグループだけ」という表現もありえます。
ところが、今度は「自分が所属するグループ」とは「どこまでの人物を指すか」が曖昧です。
この点で、「裏をかく」結果、利益を得るのは「自分たち」くらいの表現が良いと考えます。
また、「先に」という点は、通常ならば重要な観点ですが、本ストーリーでは「先」は必ずしも重要ではなく、「裏=昭和天皇が御前会議召集」という「極めて異例」の手段が重要です。
4の模範解答例は、3「相手の隙をついて」という必ずしも分かりやすくない表現を、「相手が思いもしなかった手段に出て」と具体的に書いている点が良いです。
そして、「裏をかく」のは、なんらかの行為を指しますが、今回の「昭和天皇自ら召集を画策」は、「行為の結果」より「手段の結果」の方が強いので、「手段」が良いです。
さらに、「自分たちが利益を得て」に加えて「相手に損をさせて」という表現が明快です。
この書き方は小学生向けであり、中学生以上は「相手側に損害を与え」という書き方の方が良いです。
先ほどの「模範解答例」は「小学生向け」であり、中学生以上向けは下記になります。
相手が思いもしなかった手段に突然に出て、相手の隙をつき、相手側に損害を与え、自分たちが大きな利益を得ること。(3点、模範解答例)
今回は「裏をかく」を、具体的なストーリーをもとに的確に記述しました。
このように、「言葉の意味を改めて考えてみる」姿勢は、とても大事です。
何らかの物語を読んでいるときに、



このストーリーの中で
出てくる「・・・」という言葉、



知っているけど、このストーリーの中では
具体的にどういうことかな?
このように「具体的にどういうことか?」を考えると、「読み解く力」が増強されるでしょう。
物語とは、「登場人物たちが紡ぎ出すストーリー」です。
「登場人物たちの思い・心境」を具体的に考える学びは、国語のみならず、全科目の学力が上がるでしょう。




