「『やる』の意味の核心は何か」を読み解く〜場面の一人になる姿勢・「書いていないこと」を読み解く力・色々使用可能な日本語「やる」〜|中学受験・読解力と読み解く力3

前回は「「やりましょう」の「やる」とは何か?〜会話と場面から「読み解く」力・「読み解く力」を育む学び・「書いていないこと」を深読みする学び〜」の話でした。

目次

「書いていないこと」を読み解く力:色々使用可能な日本語「やる」

新教育紀行
雲と空(新教育紀行)

前回ご紹介した、「読み解く力」を上げる問題文を再掲載します。

文章の説明:「西園寺」は、外務大臣である「松岡」が率いる「松岡外交訪問団」の一員です。「松岡」や「西園寺」たちは、他の政府関係者と共に列車に乗っており、ある国に向かっています。「西園寺」の名前は「公一」です。

(西園寺公一「貴族の退場」より、一部改変)


「赤い矢」号は、松岡外相のための、サロンおよび浴室付き寝室と食堂の一両、随員用の寝台車一両をつけた豪華編成で、シベリアの大平原を走る。

「赤い矢」号の賓客大日本帝国外務大臣松岡は、大したご機嫌である。

特別食堂車には、モスクワ(当時のロシアの首都)一流のメトロポール・ホテルの料理番と、三人の給仕人とが乗勤して、この賓客のために腕を振るっている。

松岡

公一さんは、ロシアは
初めてだと言いましたネ。

松岡

ロシアを知らなければ
不可ません。

松岡

私は、ロシアは
第二の故郷ですよ。

松岡

私には、ロシア人は
よく解る。

松岡

これでも、書記官でこの国にいた頃には、
ロシアの美人に口説かれたこともあってネ。

松岡

ワッハッハッハ・・・

西園寺

・・・・・

松岡

まあ、ロシア人を
よく研究なさるといい。

松岡

私のやり方を
よく見ていらっしゃい。

松岡

帰ったら、日本をあっと
言わせますよ。

西園寺

・・・・・

松岡

近衛公は、私が何をしでかすだろうと、
心配して居られる。

松岡

私は、ちゃんと
知っていますよ。

松岡

近衛公が、何かアメリカと、ゴチャゴチャ
話し合って居られるのも知っている。

松岡

だがネエ、公一さん、
近衛公は、素人ですよ。

松岡

外交のことは、憚りながら
この松岡にお聞きになったらいい。

松岡

教えて
差し上げる。

西園寺

・・・・・

松岡

日本は、今
御維新以上の時です。

松岡

御維新の時には、三条公を助ける
岩倉があった。

松岡

今日の三条公は、
近衛公です。

松岡

岩倉が無ければ、
不可ないじゃありませんか。

西園寺

・・・・・

松岡

まあ、
それはいい。

松岡

シベリア鉄道は、先が長いのだから、
色々ゆっくりお話ししましょう。

松岡

ロシアは、先ずウォッカと、
キャヴィヤからですよ。

松岡

スターリンさんからの
ご馳走だ。

松岡

やりましょうや


「読み解く力」を鍛える問題1

上の会話において、「松岡」が最後に語っている「やりましょうや」の「やる」とは、どういうことを意味するのか、具体的に、簡潔な一文で答えてください。

「国語の読解問題」は、原則として「文章に書いてあること」が答えになります。

今回は、「文章に書いていないこと」も含めて読み解き、「良い答え」に到達したいと考えます。

最後に、「松岡」が「やりましょうや」と言っていますが、「やる」内容が書いていません。

日本語の「やる」は、英語の”Do”と似ている言葉で、色々使用できます。

例えば、勤勉な中学生同士が「放課後などに、数学の宿題を一緒に解く」約束をしていたら、

男子中学生

なあ、
そろそろ、やらない?

こう言えば、「やる=数学の宿題を一緒に解く」ことを意味します。

あるいは、ゲーム好きな小学生が、友達の家に行ってゲームする予定だったら、

男子小学生

ねえ、そろそろ
やろうよ!

こう言えば、「やる=ゲームする」であり、お互いの話次第では「何のゲームをする」意味をも含みます。

このように、「極めて広い意味」を有する、日本語の「やる」という言葉。

上の問題は、理解力ある人にとっては、難しい問題ではないと思います。

その一方で、「書いてあること」=読解として学んでいる小学生から中学生には、少し難しいかもしれません。

女子小学生

「やりましょう」って
何を「やる」んだろう?

女子小学生

文章に書いてあるはず
だけど、書いてない・・・

「松岡」が語る「やりましょう」は、具体的に文章には見当たりません。

それでは、具体的に「やりましょう」が「何か」を考えてみましょう。

「『やる』の意味の核心は何か」を読み解く:場面の一人になる姿勢

新教育紀行
記述問題への大事な姿勢:特攻隊員の気持ち(新教育紀行)

このような「対話を含む物語文」を読み解く力を養うためには、その場面を「客観的に眺める」のではなく、「場面の登場人物になる」のが良いです。

ここでは、「松岡」になってみるのも一案ですが、どう見ても「聞き役」である「西園寺」になってみると良いでしょう。

まずは、「やる」の内容を考えるために注意すべき点を「青色アンダーライン」を付します。


「赤い矢」号は、松岡外相のための、サロンおよび浴室付き寝室と食堂の一両、随員用の寝台車一両をつけた豪華編成で、シベリアの大平原を走る。

「赤い矢」号の賓客大日本帝国外務大臣松岡は、大したご機嫌である。

特別食堂車には、モスクワ(当時のロシアの首都)一流のメトロポール・ホテルの料理番と、三人の給仕人とが乗勤して、この賓客のために腕を振るっている。

松岡

公一さんは、ロシアは
初めてだと言いましたネ。

松岡

ロシアを知らなければ
不可ません。

松岡

私は、ロシアは
第二の故郷ですよ。

松岡

私には、ロシア人は
よく解る。

松岡

これでも、書記官でこの国にいた頃には、
ロシアの美人に口説かれたこともあってネ。

松岡

ワッハッハッハ・・・

西園寺

・・・・・

松岡

まあ、ロシア人を
よく研究なさるといい。

松岡

私のやり方を
よく見ていらっしゃい。

松岡

帰ったら、日本をあっと
言わせます
よ。

西園寺

・・・・・

松岡

近衛公は、私が何をしでかすだろうと、
心配して居られる。

松岡

私は、ちゃんと
知っていますよ。

松岡

近衛公が、何かアメリカと、ゴチャゴチャ
話し合って居られるのも知っている。

松岡

だがネエ、公一さん、
近衛公は、素人ですよ。

松岡

外交のことは、憚りながら
この松岡にお聞きになったらいい。

松岡

教えて
差し上げる。

西園寺

・・・・・

松岡

日本は、今
御維新以上の時です。

松岡

御維新の時には、三条公を助ける
岩倉があった。

松岡

今日の三条公は、
近衛公です。

松岡

岩倉が無ければ、
不可ないじゃありませんか。

西園寺

・・・・・

松岡

まあ、
それはいい。

松岡

シベリア鉄道は、先が長いのだから、
色々ゆっくりお話ししましょう

松岡

ロシアは、先ずウォッカと、
キャヴィヤから
ですよ。

松岡

スターリンさんからの
ご馳走
だ。

松岡

やりましょうや


上のように、場面の説明文と「松岡の会話」には重要なポイントがいくつかあります。

ここで、「スターリン」が「どういう人物か」は、「歴史の話」として、国語の視点で、「スターリンという人物からのご馳走」と考えます。

「読み解く力」を鍛える問題1:重要ポイント

・場面

「松岡」は大したご機嫌

特別食堂車には、モスクワ一流のメトロポール・ホテルの料理番と、三人の給仕人とが乗勤

・「松岡」の会話

帰ったら、日本をあっと言わせます

色々ゆっくりお話ししましょう

ロシアは、先ずウォッカと、キャヴィヤから

スターリンさんからのご馳走」

他にも重要ポイントがありますが、今回は上の部分に絞ります。

ここで、モスクワは現代もロシアの首都であり、筆者が「説明」を付しましたが、「首都の一流ホテルの料理番と給仕人が乗勤」する「特別食堂車」という場面が重要です。

日本にも、上のような「食堂車」は存在しますが、「首都の一流ホテルの料理番と給仕人が乗勤」は、「首脳会談」などでない限り、普通はまず考えられません。

いわば「夢のような列車」に乗っているのが、「松岡」と「西園寺」です。

更に、「帰ったら、日本をあっと言わせます」という言葉からは、「松岡」の巨大な自信が伺えます。

色々ゆっくりお話ししましょう」と言っている通り、「松岡」は「話したい」気持ちであることが分かります。

しかも、どうやら「ゆっくり」話したい「松岡」。

そして、「ロシアは、先ずウォッカと、キャヴィヤから」と続きます。

スターリンさんからのご馳走」において、「スターリンは誰か」は大きな要素ですが、「首都の一流ホテルの料理番と給仕人が乗勤する特別食堂車」を用意することが出来るのは、ある国の国家元首、又は巨大組織の実力者などに限定されます。

ここで、「松岡」が最後に、尋常ではない「ご馳走」を前に、

松岡

やりましょうや

このように言っているので、「やる」は「食べること」であることは容易に分かります。

「読み解く力」を鍛える問題1:解答例と評価(3点満点)

1.食べること。(1点、又は0点)

2.一緒にご馳走を食べること。(1点)

3.一緒に大ご馳走を食べること。(2点)

4.一緒に大ご馳走をいただきながら、大いに語ること(語り合うこと)。(模範解答例:3点)

解答例と評価(3点満点)は上記の通りです。

直前に、「ロシアは、先ずウォッカと、キャヴィヤから」とあり、「やる=食べる」と読み解けます。

「1.食べること」は正しいですが、「読み解く」ことを考えると、非常に不足しており「的確でない」です。

ただし、「書かないよりは良い」記述においては、「1点」の評価で良いと考えます。

「2.一緒にご馳走を食べること」は、直前の「ご馳走」を元に、「食べる」に更に「一緒に」と表現している点が的確ですが、「普通のご馳走」ではなく、更に後述の視点が書けているので、1点です。

「3.一緒にご馳走を食べること」は、「夢のような食堂車」ということを読み解き、「とてつもない大ご馳走」であることが分かるので、ここで「ご馳走」が良いですが、2点です。

それでは、最後の模範解答例「4.一緒に大ご馳走をいただきながら、大いに語ること。」は、何が良いのでしょうか。

色々ゆっくりお話ししましょう」と「松岡」が言っている点が重要です。

この「大いに語ること」が、「やる」の最も大事な、核心的なポイントであることです。

大いに語ること」は、「大いに語り合うこと」の方が良いですが、今回は中学受験生対象なので、ここまでは書けなくて良い、と考えます。

またここで「『大いに』語る」と記載しましたが、「大いに」という強調する言葉は大事です。

「大いに語ること」は「色々と話すこと」くらいでも良いですが、「話す」と「語る」は異なります。

「話す」と「語る」が違うのは、中学生以上はきちんと理解する必要があります。

中学受験生である小学生を対象とするとき、「大いに語ること」を「色々と話すこと」でも良いと考えます。

そして、細かい点ですが、「食べること」でも良いですが、「大ご馳走をいただきながら」の方が、大ご馳走にピタリと合うので、より良いですが、中学受験生は「大ご馳走を食べながら」又は「大ご馳走を食事しながら」で良いです。

一方的に話している「松岡」は、「一人でも話し続けるのが好きな人物」であることが分かりますが、「多少のリアクションは欲しい」のが、人情です。

「大ご馳走を頂く」ことは、「大いに語るための手段の一つ」であり、「松岡」は「色々ゆっくりお話ししましょう」と「西園寺と話すこと」を明確に、大いに望んでいます。

この点において、今回の「読み解く」ことは、「食事する」は記載ありませんが「色々話す」は「書かれていること」です。

小学生から高校生は、「宴会に出る」経験が少ないので分かりにくいかもしれませんが、人間同士が「大いに語る」時には、古来から「大ご馳走」を前にした「何かの祝賀会」という名目が最も良いです。

中学校から高校の部活では、何かを成し遂げた時に、お菓子やソフトジュースを手にコンパをすることがあります。

この時、「食べ物や飲み物がないと寂しい」のが現実です。

小学生の方は、「お誕生日会」を、自宅や学校などで参加した経験があると思います。

いつの時代も、どの世代の人にとっても「人と人が会って、大いに語る」には、「食べ物や飲み物が欲しい」のであり、「大ご馳走」ならば「言うことなし」です。

「松岡」が一方的に、色々と語り続ける中、「色々ゆっくりお話ししましょう」と言い、「ご馳走だ」と言って、「やりましょうや」に続く流れを読み解く姿勢が大事です。

本文は「貴族の退場」(西園寺公一 著)という書籍から引用しましたが、「西園寺」が「無言である」ことは明記されてなく、筆者が追記しました。

「・・・・・」と無言でいる「西園寺」に対して、「松岡」は、当時の人物、歴史上の人物を多数挙げて、一方的に捲し立てているような感じです。

この「話したい」という「松岡」の気持ちこそが、「やる」の意味の核心であることを読み解く姿勢が大事です。

上の文章では、「松岡」は、「自己を過去の英雄に擬している」点も重要であり、「大いに語り、話したい」のです。

冒頭に書きましたが、「自分が『西園寺』になってみる」と、「やる」の意味が掴みやすいと考えます。

このように、「やる」を「具体的に、簡潔に説明」する問題を考えてみました。

次回は、別の「読み解く問題」を考えます。

新教育紀行

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