前回は「木の個性が際立つ昔の木造建築〜きれいに整えられた現代木造建築・多様性に溢れていた江戸期日本・「大公儀」徳川幕府の曖昧な権限〜」の話でした。
木造建築の秘密が沢山ある「上の方」:建物にかかる様々な力とモーメント

現代の木造建築とは大きく異なり、「木の形がそのまま」の昔の木造建築。
長野県松代市では、かつての松代藩の藩校・文武学校の貴重な木造建築が残っています。

続いて、弓技場に向かいました。
弓技場は、開口(窓)が極めて限定されていて、内部は暗い空間です。
弓を放つ方向は思い切り開いている一方で、それ以外の方向の開口は、通風のための小さな開口です。

そして、弓技場から、弓を放つ側を見ると、パッと開けるような空間構成となっています。
切妻屋根によって、開口が上からグッと下がっていて、求心性が高い空間です。
弓の稽古をするには、うってつけの場であり、ここで多くの藩士たちが弓を鍛えました。

上部の方は、木材が複雑に組み合って、屋根を支えています。
住宅と異なり、弓技場などの広い空間では出来るだけ柱を減らして、自由な空間とすることが大事です。
現代の体育館などでは、鉄骨で支えることが多いですが、この弓技場は、木の梁で支えています。
広い空間を確保するために、柱を少なくし、柱と柱の距離が短い部分を「スパン」と呼びます。
弓技場のように、平面形状がシンプルな長方形の場合、スパンは「長方形の短い辺」となります。

中学受験の理科で、様々なてこやばねの問題がありますが、これらは全て「つり合いを考える」ことが大事です。
建物を支える梁には、上のてこと同じように様々な力・モーメントが働いています。
その結果、つり合いが取れた状態となりように、構造設計されています。
建物の構造は「構造力学」という大学生以上が学ぶ難しい学問によりますが、基礎は「てこと同じ」です。
てこのつり合いの考え方を、上記リンクでご紹介しています。

算数の食塩の問題などでは、「濃度・食塩の量」のバランスが大事です。
てんびん算は「テクニック」ではなく「本質的」であることから、筆者は、てんびん算を用いることを勧めます。

「3つのてんびん算」に関する話を、上記リンクでご紹介しています。
スパンを出来るだけ小さくして、合理的に設計することが、当時も現代も大事な発想です。
旅などで、昔ながらの木造建築を訪問した際には、上を見上げてみてください。
なかなか「上を見上げる」人は少ないですが、「上の方」には、木造建築の秘密が沢山あります。
そして、「上の方」には、「水平の方」とは違う木造建築の風景があります。
自然光が柔らかく優しく室内を包み込む障子:畳のラインと遠近感

続いて、外に出てみると、いくつかの校舎があります。
信州の山々が美しい長野県。
文武学校では、中央付近に大きな広場のような空間があり、周囲を木造の校舎が囲んでいます。
そして、木造校舎の合間から、信州の山々が見える、とても雰囲気が良い学校でした。

中心となる校舎では、文武学校の歴史や稽古が紹介されています。
この建築は、だいぶ手を入れていて、内部は全面的に改修されています。
畳のラインが綺麗につながっていて、とても奥行き感が感じられる、典雅な木造空間です。

古典的で、ある意味で「普通の木造建築」ですが、丁寧にまとめられて、美しい内部空間です。
世界的にみても、日本の障子は、とても珍しく、貴重な存在です。
現代の住まいには、障子は極めて少なくなってしまいました。
障子を通す自然の光は、柔らかく、優しく室内を包み込みます。
かつての懐かしい日本の木造建築の空間が感じられる、松代藩・文武学校。
長野県を訪問する際には、ぜひ訪れてみて下さい。

