前回は「吉積軍務局長に「大嘘」伝えた阿南陸相〜「降伏」と揺れる帝国政府・侃侃諤諤閣議に「釘刺した」迫水書記官長・理由は不要+結論のみ〜」の話でした。
昭和天皇の信頼厚かった阿南惟幾陸相:侍従武官と侍従武官長と侍従長と

1945年8月13日、大日本帝国の帝国政府・大本営大幹部は、「降伏への手続」を議論していました。
| 名前 | 生年 | 役職 | 連合国通告への姿勢 |
| 鈴木貫太郎 | 1868年 | 内閣総理大臣 | ?(受諾) |
| 米内光政 | 1880年 | 海軍大臣 | 受諾 |
| 梅津美治郎 | 1882年 | 参謀総長(大本営) | 再照会 |
| 東郷茂徳 | 1882年 | 外務大臣 | 受諾 |
| 豊田副武 | 1885年 | 軍令部総長(大本営) | 再照会 |
| 阿南惟幾 | 1887年 | 陸軍大臣 | 再照会 |
| 様々な大臣 | 1902年 | 文部大臣、軍需大臣など | さまざま |
ここで、国体などに関して、連合国へ「再照会」を強く求めた軍部。
「再照会」ということは、相手の「再回答」次第では「拒否」があり得ました。
ここで、阿南陸相が、突然動き出しました。
阿南惟幾迫水書記官長、
ちょっとお願いします。
現代の視点から見れば、「軍人は悪」と考える人がいらっしゃるかもしれません。
実態としては、そんなことは全くなく、軍人、特に陸相、参謀総長は立派な人物が多かったのでした。
「人の上に立つ」のは、相応の人物でなければ、務まりません。
当時、特に軍人の上に立つ陸相・海相・参謀総長・軍令部総長は、ほぼ全員が、きちんとした人物でした。


特に、阿南惟幾陸相は、上の写真の通り極めて温厚な紳士でした。
そして、帝国陸軍の将兵の信望が極めて高かった阿南陸相。





阿南は、
良いな・・・
更に、阿南陸相は、かつて侍従武官を務めたこともあり、昭和天皇の信頼も極めて厚い人物でした。
侍従武官:帝国陸軍から4名、帝国海軍から3名
侍従武官長:帝国陸軍大将・中将
侍従長:帝国海軍大将・中将
当時の宮中には、侍従武官が7名おり、帝国陸軍から4名、帝国海軍から3名でした。
そして、侍従武官長は帝国陸軍から、侍従長は帝国海軍から、が決まりでした。
帝国陸海軍は、宮中においても「陸海軍で役割分担を明確に、きちんと」行なっていました。
とにかく、帝国陸軍内部において、極めて信頼が厚かった阿南惟幾は懸命に陸軍を統帥しました。
そして、強力な権限を持っていた陸軍省の吉積軍務局長に電話した阿南陸相。



あ〜、
吉積か、



今さっき、閣議が始まったが、閣僚達は、
だんだん君たちの意見を了解する方向に向かいつつある。



だから、君たちは、私がそちらに帰るまで
動かないで、じっと待っていてもらいたい。



ここに今、内閣書記官長がいるので、
もし、会議の模様を直接聞きたいともうなら、



電話を
代わっても良い。
明らかに会議は、吉積局長らの発想とは「正反対の方向」だったのに、「大嘘」ついた阿南陸相。
しかも「事前打ち合わせなし」で、突然「自分に電話を代わるかもしれない」状況に、



!!!!!!!!!



電話を代わったら、
なんと答える?
迫水書記官長は、大いに驚きました。
しかも相手は陸軍であり、下手なことを言えば、「生命を狙われる危険がある」状況でした。
衝撃!「皇軍は新たに勅令を拝し作戦開始」大本営発表間近:陸相「知らない」





私は
びっくりした。



閣議の空気は、
全く反対の方向へ向かい、



阿南陸相は正に
孤軍奮闘のかたちである。



私は、陸相が、どうしてこんなことを
言うのか、自分の耳を疑ったが、



すぐに陸相の
真意を悟った。



そうか、
そういうことか・・・
言葉ではなく、「以心伝心」で「阿南陸相の真意」悟った迫水書記官長。



私は陸相の腹芸に
感激した。



その瞬間、もし、軍務局長が
私と話をしたい、と言い出したら、



陸相の言葉に口裏を合わせようと
決心したが、



どうだ?
何?迫水書記官長と話す必要はない、か。



分かった、
それでは。



・・・・・
そして、吉積軍務局長との電話を終えた阿南陸相。



先方は、その必要がない、と言ったのか、
陸相はそのまま電話を切り、



再び閣議の行われている部屋へ
戻って行った。



迫水書記官長、
戻りましょう。
つまり、いきり立っていた陸軍を「まずは沈静化」することを選択した阿南陸相。



私も閣議室へ入ったが、
今度は総理大臣秘書官からの呼び出しを受けた。



席の暖まる暇もない忙しさだったが、
廊下へ出てみると、



今、総理秘書官と話をしてきたという
朝日新聞社の柴田敏夫記者が立っていた。



何か重大なことが起こったらしく、
柴田記者には、ありありと緊張の色がみなぎっている。



彼は、一枚の紙切れを差し出した。
そして、言った。



内閣書記官長は、
これをご存知ですか?



紙切れを受け取り、目で文字を追うと、
次のようなことが記してあった。



大本営、
十三日午後四時発表。



皇軍は新たに勅令を拝し、米英ソ支(中)四か国軍隊に対し、
作戦を開始せり。



!!!!!!!!!!
信じられない「大本営発表」に、極大衝撃を受けた迫水久常。



私は、息せき切って、
柴田記者に質問した。



これは、一体、
どういうことなんだ!



大本営が、今頃こんな
発表をするはずがないじゃないか!!



おかしい
ですね。



この発表は、すでに新聞社や
放送局に配られ、



ラジオでは、午後四時に放送することに
なっているんです。



!!!!!!!!!!!!!!



柴田記者の話が終わるか終わらないうちに、
私はその紙切れを握り締め、閣議室へ飛んで帰った。
超緊急事態に衝撃を受けた迫水書記官長は、閣議室へ「飛んで」行きました。
今、閣議では「終戦に向けて」が話し合われているのに、



新たな作戦開始し、
戦争続行!
「戦争続行!」を発表しようとしていた大本営。
こんなことが発表されては、「取り返しのつかない事態」になるのは目に見えていました。
そして、陸軍は「取り返しのつかない事態」に、強行して持って行こうとしていました。



全閣僚の視線が私の一身に
集まったような気がした。



?????



?????



?????



?????



?????
整然と議論していた中に、大の大人である迫水書記官長が血相変えて乗り込んできました。
皆が、不思議な目で迫水書記官長を見ていたでしょう。



私は、阿南陸相のところへ行き、
くだんの紙切れを差し出した。



大臣、あなたは、この大本営発表を
ご存知ですか?



・・・・・



紙切れに目を落とし、
一読した阿南陸相は、首をヨコに振った。



いやあ、全然、
知らないね。



やはり・・・



大本営からの発表は、参謀本部の所管なんだから、
念の為、聞いてみたらどうだろう。



陸相が知らないのに、
こんな重大事が発表予定、か・・・
慌てる迫水書記官長でしたが、阿南陸相には「大本営発表を止める権限」はありませんでした。


軍部の総本部であった大本営を統帥したのが、参謀総長と軍令部総長でした。
帝国政府側だった陸相には、「大本営に物申す」ことは出来なかったのでした。
とにかく「いきり立っていた」軍部は、徹底抗戦に無理やり持って行こうとしていた、のでした。



米英ソ支
四か国軍隊に対し、



新たな作戦開始し、
戦争続行!!
仮に、この発表がされた場合、連合軍が即反撃に出てくることは目に見えていました。


ひょっとしたら、「次の原爆」があるかもしれない中、



ここは、私が
なんとかしなければ!



こんな発表は
なんとしても止めねば!!!
次回、迫水書記官長は、「謎の大本営発表」差し止めに奔走します。
次回は上記リンクです。


