前回は「「事変」と「戦争」の違い〜宣戦布告の有無と日本語の解釈・対米英戦の大日本帝国の詔勅=宣戦布告文・天皇から国民への宣言〜」の話でした。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の誤った解釈

今回は、福沢諭吉の「学問のすすめ」の話です。

知ってるよ!
「天は人の上に人を造らず」



そして、
「人の下に人を造らず」だよね!



私も、この言葉は
知ってるよ!
かつて、長い間、日本の一万円札の肖像となっていた福沢諭吉。
2024年に新紙幣が発行されて、一万円札肖像は渋沢栄一に変わりました。
大多数の日本人にとって「一万円札=福沢」の印象が強く、福沢の顔はほぼ全ての日本人が知っています。
そして、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の言葉は教科書で紹介されたこともあり、



この「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は、
授業で勉強した!



福沢諭吉と言えば、
この言葉だよね!
とにかく、超有名である「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」の言葉。
この言葉は、ほとんどの中高生は知っていて、小学生でも知っている人がいるでしょう。
この言葉が広く知られ、人口に膾炙している理由は、様々あります。
最も大きな理由は「極めて分かりやすい」ということです。



「人は生まれながらにして、平等であり貴賎上下の差はない」
という意味だよね。
この「平等主義」を高らかに謳っているとも言える、簡潔極まりない言葉。
士農工商の封建社会だった江戸時代から、「四民平等」となった明治時代の象徴的言葉でもあります。
「学問のすすめ」は、福沢が多年に渡って書き足していった書籍で、最初の初編は明治五年発刊です。



まさに、江戸時代から
明治時代に変わった頃だね!
「江戸時代から明治時代へ」の大革命を象徴するような言葉であり、広く知られるようになりました。
実は、この言葉の「人は生まれながらにして、平等であり貴賎上下の差はない」という解釈は誤りです。



えっ!
なんで?
実は、この「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は、福沢が言ったのではないのです。
「学問のすすめ」を実際に読んでみましょう。



天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず
と言えり。
「学問のすすめ」冒頭は、この言葉から始まります。



福沢さんは、
言っているけど・・・
この文章を、よく見てみましょう。



確かに「・・・と言えり。」って
書いてあるね。



少し難しい言葉だけど、
古文の授業で習った・・・



「・・・と言えり。」は
「と言われている。」くらいの意味だよね。
実際、福沢が「学問のすすめ」で主張しているのは、



「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」
という言葉があります。
このように、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉を紹介しています。
つまり、この言葉は「福沢が言った」ではなく「紹介したに過ぎない」言葉です。
福沢諭吉の真意「世の中様々だけど、学問しよう!」


実際に、「学問のすすめ」の初級編の冒頭を読んでみましょう。
ここで「初級編」というのは、「レベルが初級」という意味ではなく「最初の編」という意味です。
「学問のすすめ」は、初級編に続いて、二編、三編と続き、十七編まである書籍です。
天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。
されば天より人を生ずるには、万人は万人皆同じくらいにして、生まれながら貴賤上下の差別なく、満仏の霊たる身と心との働きをもって天地の間にある万の物を資(と)り、
持って衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずして各々安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。
福沢は冒頭で、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉の意図を説明しています。



万人は万人皆同じくらいにして、
生まれながら貴賤上下の差別なく・・・
この説明は、正に大勢の人が知っている解釈と同じです。
そして、文章が下記のように続きます。
されども今広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや。
ここで、重要な言葉は、「されども」と福沢が言っていることです。
「されども」は現代の日常会話では、あまり使われない言葉ですが、「しかし」「ところが」くらいの意味です。
この文章を、意訳すると、



ところが、世の中を見ると、頭の良い人も
悪い人もいるし・・・



貧しい人も、豊かな人もいて、
貴人も普通の身分の人もいるよね・・・



「生まれながら貴賤上下の差別なく」のはずなのに、
どういうことなのでしょう?
そして、福沢は「何ぞや。」と、読者に問いかけています。



確かに、
最初は思った通りと思ったけど・・・



この短い文章の中で、
違うニュアンスになったね・・・
「下人(げにん)」という言葉は、差別用語なので現代は用いませんが、当時は普通に使われていました。
ここでは、「普通より、やや低い身分」くらいな意味と思って良いでしょう。
このように、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は「平等を説いた」ではないのが実情です。
そして、続けて、福沢は、



みなさん、学問をすることは
とても大事なのですよ!



だから、みんなは
一生懸命学問しましょう!
このように、まさしく「学問のすすめ」を熱烈に推奨しています。
「学問のすすめ」は小学生には難しいですが、中高生は、ぜひ読んでみると良いでしょう。
次回も、福沢の「学問のすすめ」を読んでゆきます。